2013年12月3日火曜日

フアン・マヌエル・カニサレス氏 来日インタビュー


 「魂を揺さぶる音色」と、その高い技術と音楽性が絶賛されているフアン・マヌエル・カニサレス氏が12月18・19日の新宿文化センター公演を前に来日。舞台の見どころと、その人となりを紹介します。

 初来日は1989年、パコ・デ・ルシア氏のツアーでセカンド・ギタリストを務めた。
 今回の来日で楽しみなことの一つが「沖縄に行くこと。琉球音楽がとても好きなので、いろいろ聴きたい」とのこと。作曲も手がけ、オーケストラとの共演も多いカニサレス氏。多忙な音楽活動の中でも「昨年夏、日本に来た時は富士山の頂上にも登ったよ。楽しかった」という行動派。「ギターはいつも座って、静かに弾いているものだから、オフの時はアクティブに動こうと思っているんだ」。
 日本に来て苦手なのは「地震!こわいよ。揺れるときにグラスなどがカタカタいうでしょう、あの音が嫌いなんだ」。
 1966年、スペイン東部のカタルーニャ生まれ。わずか10歳でパコ・デ・ルシア氏にその才能を認められた。「親戚からプレゼントされたギターを手にギター教室に通い出したのは父だったんだけど、一緒についていった兄の方が上手で、先生が『この子を習わせなさい』って(笑)。私はその(9歳年上の)兄から教わり、弾き始めたんだ。6歳の時だよ」。
 そんなカニサレス氏がおくるカルテット(四重奏)公演の魅力とは――。



――今回のカルテット(四重奏)公演の魅力は?

 今回のショーは、踊りが主体のものではありませんが、バイレというフラメンコの大事な要素も取り入れています。今回、一緒に来日するアンヘル・ムニョス(バイレ、カホン、パルマ)とチャロ・エスピーノ(バイレ、カスタネット、パルマ)はスペインでもキャリアを認められた、優秀な踊り手です。
 音楽的には、私と、セカンド・ギターを務めるフアン・カルロス・ゴメスの2台のギターの掛け合い、ダイアローグ(対話)に注目して、楽しんで頂ければと思います。

――カニサレスさんはオーケストラと共演したり、グラナドスのピアノ曲をギター用に編曲したりと多彩な活動をなさっていますが、ご自身の中で「フラメンコ」と「フラメンコ以外の音楽」という区分けはありますか?

 私は、クラシックの演目を演奏することがあっても、フラメンコ・ギタリストです。フラメンコとクラシック、全く別の世界ですが、例えば、私が今、シリーズとして手がけている、スペインクラシックの作品をフラメンコ・ギターで演奏するということに関していえば、アルベニスやグラナドス、ファリャといった作曲家もフラメンコから影響を受け、その作品の中に潜むフラメンコらしさを取り出し、それを強調することによって、フラメンコとクラシックの間の架け橋になれればと思います。
 偉大なクラシックの作曲家たちが、フラメンコから様々なものを吸収して自分の作品に取り入れたように、私も、偉大なクラシックの作曲家からいろいろなものを取り入れ、自分のフラメンコとして発信していきます。
 スペインクラシックに興味を持ったのは、9〜10歳の頃、音楽院(コンセルバトリオ *スペインの義務教育は主要教科のみなので、国立・私立の芸術音楽院があり、自由意思で好きなものを学べる)で勉強していた時。そして初めて、クラシック作品をギターに編曲したのは、90年代の初めにパコ・デ・ルシアがアランフェス協奏曲のCDを発売した時、一緒に収録したアルベニスの組曲「イベリア」の3曲が最初です。その時、このプロジェクトはとても面白いと思ったのです。
 
――これまで共演してきて、影響を受けたアーティストは?

 様々な偉大なミュージシャン、アーティストと共演する機会がありましたが、それぞれに必ず新しい発見、刺激がありました。
 イギリスのピーター・ガブリエル、彼のスタジオでセッションをしたり、新しい試みを行ったのは貴重な経験でした。そして、アメリカのジャズギタリスト、マイク・スターン。彼とのセッションもとても魅力的でした。
 そして、ベルリン・フィルとの共演、指揮者であり芸術監督のサー・サイモン・ラトルとの出会い。彼らとの共演は、私にこれまで体験したことのない、新しい世界を拓いてくれました。

――カニサレスさんにとってフラメンコとは?

 様々なジャンルのミュージシャンと共演していても、私の演奏は常にフラメンコらしさを失いません。彼らの、別のスタイルの音楽と、自分の演奏するフラメンコスタイルの音楽が、どのような新しいものを織り成していくか、そこにとても興味があります。
 フラメンコの一番の魅力は力強さ、そして、次に何が起こるのか分からないという即興性、未知な部分ですね。私たちフラメンコに携わる人間にとっては、「曲」という概念がなく、「形式」という概念があるのです。ソレアやシギリージャというそれぞれのリズムに則って、舞台上のアーティストが同じリズムの中で新しいものを創り出していく。暗黙の緊張感の中で、演奏と作曲が同時進行していく。それがまさにフラメンコの醍醐味、最大の魅力だと思います。
 ぜひ、それを18・19日の舞台でお楽しみ頂きたいと思います。

(スペイン語通訳/小倉真理子さん  取材・文/恒川彰子)

カニサレス オフィシャル・サイト(日本語サイトあり)

プランクトンのカニサレス・サイト


★カニサレス氏 インタビュー動画